メイキング・オブ・ピクサー
グラフィックス界の醜いアヒルの子のお話.
ってか、本書を読むまでは、ピクサーの誕生と成功がこれほどまでに危ういものだったという事実をしらなかった.
事実は小説よりも奇なりとは言うけれども、いろいろな人々の思惑が混じり合い、ピクサーという会社を作り、ピクサーをピクサーたらしめているのだ.
...正直なところ、私には本書はかなり読みづらかった.
ピクサーの歴史を、時系列順に丁寧に取り扱っているが、書かれている場面の移り変わりが把握しづらかったというか、何というか...
もう少し背景を知ってから、読み直してみたいところである.
さて、後日の自分のために、最後に白鳥となる主要な登場人物をまとめておこう.
エド・キャットムル 三次元双方向パッチ、テクスチャマッピング、Zバッファ の生みの親. 研究者として十分な名声を得ながら、何を勘違いしたのか、コンピューターグラフィクスによる長編映画を夢見てしまった人. ルーカスフィルムをだまくらかして、長編アニメーションの制作体制を整えたり. (ルーカスフィルムは、CGやVFXに興味があったわけではなく、フィルム編集、音響、合成の為の研究所を創りたかっただけ) ジョブスの目をちょろまかしながら、アニメーション部隊を動かし続ける.
アルヴィ・レイ・スミス HSV色空間の考案者. 実は、セルオートマトンの世界的権威だったらしいが、スキーの事故で全身ギブスの生活を送らなければならなくなったときに、何故かCGに目覚めて、キャットムルと働き始める.
ジョン・ラセター コンピュータグラフィックスにアニメーションの未来を夢見てしまい、ディズニーを追い出されたアニメーター. ルーカスフィルム時代には、アニメーターの肩書きは必要ないと思われていたため、「インターフェースデザイナー」とかいう変な役職でこそこそと短編映画を作る.
スティーブ・ジョブス Apple II の成功にあぐらをかいていたら、自分の会社に居場所が無くなってしまった偏屈物. どうにかして、Appleに一泡吹かせてやろうかと思っているときに、ピクサーを買収. ピクサー成功後には、「フルCG長編アニメの時代が来ると思って、ピクサーを買収した」なんてことを言ってるらしいが、本書で語られるジョブスは、そこまで時代の先が読める切れ者としては書かれていない. むしろグラフィックスに強いコンピュータメーカーだと思い込んで買収を決めたような駄目っぽさがある.
本書前半は、とことん苦労話.
理由なんて無いけれども、とにかくフルCGの長編アニメーションを創りたいって夢を追い求めて、いろいろな人をだましながら、身を潜めながら活動を続けていく様は、とても興味深い.
会社に使われるのではなく、信念を貫き通すということは、こういう事なんだろう.
後半戦は、企業買収や利権などが絡む大人の話.
ピクサーはここでもちょっとした苦労をする.
独自では売り上げが思ったように上がらず、金食い虫だったピクサーにパトロンのジョブスが腹を立てて、買収先を探し始める.
でもって、売り先がマイクロソフトに決定しようかってときに、野生のカンがが働いたのか、買収話を白紙に戻してしまう.
このあたりは、やはりジョブスのビジネスセンスなのか?
やっとのことで、ディズニーに実力を認められると、ジョブスの交渉力を武器にピクサーは有利な条件を獲得していく.
そして、ついにはディズニーはピクサーの買収に動き出し、株式交換によってジョブスがディズニーの筆頭株主となる.
う〜ん、話は面白いんだけれども、1企業で働くエンジニアの身としてみると、結局会社ってのは誰の物なんだろうと考えさせられてしまった.
儲かったのは、ジョブス一人で、影で支え続けた従業員達は、名誉以外の成功を手に入れることができたのだろうか?
ピクサーといえば、大人から子供まで知らない人の方が少ない一大ブランドだろう.
そんなピクサーも、至弱から始まり紆余曲折を経ながら成長していったという歴史に触れてみて、信念を持つということの意味を考えさせられた.
- 作者: デイヴィッド A.プライス,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/03/20
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