創造はシステムである 「失敗学」から「創造学」へ
『失敗は予測できる』の筆者である、中尾 政之さんの本.
タイトルから、思考方法の how to を述べている本のような印象を受けたが、むしろ思考の整理方法に関しての本だ.
個人的には、序章部分でかなり掴まれてしまった.
序章では、「創造」という言葉を
本書では、「創造」を「自分で目的を設定して、自分にとって新しい作品や作業を、新たにつくること」と定義した.
として定義している.
創造というと立派な感じを受けるけれども、このように定義することによって身近なものに感じられるから不思議だ.
つまりは、筆者に言わせれば休日を有意義に過ごす方法であろうと、立派な創造である.
ただ、「休日を有意義に過ごしたい」というのは単純に願望であって、そこに創造は無い.
それでは、どのように「創造」を行うのかというと、明確な目的地点の設定を行い、手段を確保するというプロセスを踏むことになる.
結局は、最重要課題は「目的を定量的に設定すること」であり、目的が明確になっていればその手段は自ずと決まる.
とはいえ、この目的を定量的に設定するというのが、やってみると意外に難しい.
本書を読みながら、ノートに書き出してあった やりたいことリストやスケジュールを眺めてみたのだけれども、「なぜそれをやるのか」ということが意外にぼやけてしまっていてびっくりした.
(本書 p48より)
目的を定量的に設定しておかないと、いつまで待っても創造活動は終わらない. 例えば、目的を「空手道を究める」に設定すると、道の定義がわからないから、死ぬまで達成できないかもしれない. それよりは、「空手道初段に合格し、黒帯を納める」という目的の方がより具体的である.
定量的に、目標を設定するとはどういうことだろう、ここは重要な部分なので、本文からもう少し抜粋しておく.
(本書 p49より)
(前略)「教育・研究に頑張ります」という意欲を目標として書くようになる. でも、これでは上司の誰も評価できない. 頑張ったか否かの限界ラインがどこなのか分からないから.もっと具体的に「○×学会誌に学術論文を2報掲載する」「○×について教科書を一冊執筆する」 「○×について新しい演習を1コマ立ち上げる」と書いて欲しい. これならば評価者もイエスかノーで答えられる.
目標は、自分だけが分かればいいものではなくて、他者からみてもそれが達成できたか、達成できなかったかが判断出来るようにしておく必要がある.
わたしは、基礎研究が趣味みたいなものだから、目的と手段がごちゃごちゃになってしまうことが多いのだが、もう少し具体的で定量的な目標設定を行った方が、todoはすっきりするんじゃ無かろうかなどと考えてしまった.
このあたりは、普段の心がけ次第で徐々に強化できそうな部分だと思うので、しばらくは意識して生活してみようと思う.
さて、現状として目的と手段がごちゃごちゃになってしまっているのは認めたとして、これがどのような問題になるのだろうか?
本書に、次のような例があげられていたので、引用しておく
(本書 p55より)
たとえば、上司から「会津若松の工場に出張するから、18日の1泊、駅のそばに3人分、予約してください」と命令されたとしよう. 命令された秘書にとって、目的は「予約の遂行」で、手段は「インターネット予約」である. (中略) でも上司は「営業と工場を融和させたい」という「思い」を持っていた. だから、「定例会議の前日に工場の人と一杯飲む」という「言葉」を選んだのである. つまり、目的は「のみ乳ケーションする」で、手段は「前日から泊まり込む」であった.
それでは、目的と手段をどのように分けて考えるのか?
(本書 p31より)
創造の思考過程を簡単に言うと、図4の上段のようになる.つまり、「思いを言葉に、言葉を形に、形をモノに」である. (中略) 「思い」は茫洋とした曖昧な願望である. (中略) 願望とは、普通、「何となく、生きている証拠にでっかいことをやってみたい」という程度の、初日の出を見ながらフツフツと湧き起きたような熱き思いに過ぎない. これでは脳の思考が目指すべき、マトが決まらない. そこで、この思いを具体的な言葉に変換する. 「言葉」は、設計で言えば要求機能、設計仕様であり、研究で言えば目的である.つまり「何をしたいか」「wat to do」である. (中略) 「形」は設計解であり、または「何を作るのか」「how to make」である.
漠然とした、考えは思考相関図として書き出してしまい、その項目を「思い」(目的)「言葉」(手段)「形」(アクションプラン)の種別に割り当てて思考展開図とする.
結局は、自分の思考をいかにして整理するかという話になる.
創造性というのは、生まれ持った能力ではなく、訓練により修練可能なスキルであり、適切なプロセスによって思考の整理を進めていけば自ずと創造が行えるという考え方はとても面白かった.
日常生活において、「やりたいこと」や「やらなければならないこと」に振り回されている感じがする人には、オススメしたい一冊だ.
創造はシステムである 「失敗学」から「創造学」へ (角川oneテーマ21)
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